◇桜ものがたり◇
「小夜、見てごらん。お腹がいっぱいになったのだね。
しあわせそうな顔をして眠っている」
春樹は、目を細めて、赤子を見つめた。
「春樹さま、名前を考えられましたか」
小夜は、生まれてお七夜を迎える赤子の名前を気にした。
「名前は、お世話になっているお屋敷の光祐坊ちゃんの
「祐」の字をいただいて、祐里に決めたよ。
お屋敷の長子は「祐」の字を名前に使われるらしい。
旦那さまは、啓祐さまであられるし、
その由緒ある「祐」と里を出てきた私たちがこの桜川で、
恙無く暮らしていける願いも込めて、
祐里と名付けることにしたよ」
春樹は、祐里が女子であったことに、内心ほっとしていた。
神の守の血筋を引く祐里は、生まれながらにして力を秘めていた。
もし男子であれば、必ず神の森が草の根を分けても、
迎えに来ると確信できた。
この桜川に来て以来、春樹は、自分の気配を消していた。
不思議と他の力が加わって、結界の力を強めて守ってくれていた。