◇桜ものがたり◇
月日は巡り、祐里の一歳の誕生日になった。
祐里の右手は、相変わらず握られたままで、
春樹と小夜の心配を他所に、
不自由なく、左手だけで日々を過ごしていた。
「小夜さん、こんにちは。
坊ちゃまがどうしても祐里ちゃんのお誕生日をお祝いしたいと
おっしゃいましたので、一緒に参りました」
三歳を迎えたばかりの光祐は、初めて祐里に会いに来た。
「紫乃さん、こんにちは。
光祐坊ちゃま、いらっしゃいませ。大きくなられましたね」
「さよ、こんにちは。
ゆうりのたんじょうびのおもちです。
ゆうりとあそんでもいい」
光祐は、誕生祝いの紅白餅の箱を小夜に差し出した。
「光祐坊ちゃま、ありがとうございます。
どうぞ、祐里と遊んであげてください」
小夜は、紅白餅の箱を受け取って深々と頭を下げた。
光祐は、靴を脱いで祐里の側に駆け寄った。
「ゆうり、ぼくは、さくらかわこうすけ。
いっしょにあそぼうね」
光祐は、祐里の右手を取って、笑顔を向ける。
光祐から手を取られた祐里は、固く握っていた右手をゆっくりと開いて、
その掌(てのひら)から咲き出た桜の花を、光祐に差し出す。
それを側でみていた小夜と紫乃は、驚愕して、言葉がでなかった。