◇桜ものがたり◇
「ゆうり、ありがとう。きれいだね。
ばあや、ゆうりがおはなをくれたよ」
光祐は、祐里から差し出された桜の花を受け取り、
嬉しくて、紫乃に掲げて見せた。
小夜と紫乃は、二人で顔を見合わせた。
紫乃は、小夜から、祐里の右手が握られたままで、
心配していると聞いていた。
その右手が一年経って、ようやく開いたのだった。
それも不思議なことに満開の桜の花を握っていたらしい。
「ほんとうに綺麗な桜のお花でございますね」
紫乃は、光祐に笑顔で相槌を打ち、
桜の花を光祐の上着の胸ポケットに差し入れた。
小夜は、祐里の側に走り寄り、開かれた右手に触れて、
涙ながらに、祐里を抱きしめて喜んだ。
祐里は、小夜から抱きしめられ、きょとんとしている。
それから、何事もなかったかのように、
右手を自由に使って、
光祐と仲良く積み木遊びを楽しんでいた。