◇桜ものがたり◇
その夜、小夜は、仕事から戻った春樹へ吉報を伝えた。
「春樹さま、祐里は右手に桜の花を握っていました。
光祐坊ちゃまが遊びに来られた時に、掌(てのひら)を開いて、
桜の花を差し出したのですよ。
この辺りの桜は、まだ蕾でしょう。不思議でなりません。
それからは、ご覧のように右手を使いますの」
祐里は、両手を使って、積み木で遊んでいる。
「ほんとうだ、右手を使っている。
それにしても、桜の花を・・・・・・
不思議なこともあるものだ。
これは、祐里が桜に守られているということだろうね。
祐里は、しあわせになる子だよ。
光祐さまに肖って「祐」の字をいただいた甲斐があったようだね」
春樹は、小夜の肩に手を置いた。
「はい。なんだか安心いたしました。
私のために神の森を出ることになった春樹さまの御子が、
この桜川の地で受け入れられたのですもの」
春樹は、右手を使っている祐里を抱きかかえて、頬擦りした。
………