◇桜ものがたり◇

「あなたは、どこまで行かれるのですか」

 光祐は、底気味悪い恐怖を感じつつ、村人に問いかける。


「あの川の土手を通って、家へ帰るところだ」

 光祐は、村人が指差した遥か前方の川を見つめる。

 川から神の森までは、まだまだ距離があった。


「よろしければ、その川まで、後ろに乗せていただけないでしょうか」

 神の森への不安から、光祐は、既に疲労を感じていた。


「乗りなされ。この暑さでは嬢ちゃんが可哀想だ」

 村人は、光祐と祐雫の額から流れる汗を見て、同情した。


 光祐は、牛車の後方に回って、

 祐雫を抱え上げてから、荷台へ乗りこんだ。

 荷台には、籠いっぱいの夏野菜が積まれていた。
 
 その野菜は、現のものであり、光祐は、微かながら、ほっとする。


「助かりました。ありがとうございます」

「ありがとうございます」

 光祐と祐雫は、荷台に座って、一息つき、タオルで汗を拭った。


「わしらは、神の森を恐れて暮らしておる。

 もっと近くまで乗せてあげたいが、あの川までにしてくだされ」

 村人は、すまなさそうに頭を垂れる。


「勿論です。川まで乗せていただくだけでも十分助かります」

 光祐は、村人に頭を下げて、感謝の気持ちを伝えた。

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