◇桜ものがたり◇
「そういえば、わしが子どもの頃、
爺さんが御伽噺をしてくれたことがあった。
榊原の血筋の選ばれし者だけが神の森に入ることができ、
神の森は、地脈を全国に張り巡らせて、この国を守っているのだと。
御伽噺だもので忘れておった。
お父(とう)からは、神隠しに遭うから、神の森には近付くなと
口をすっぱくして言われたものだ」
川の丸太橋の前で、村人は、光祐と祐雫を降ろした。
「助かりました。ありがとうございました」
「ありがとうございました」
光祐と祐雫は、道端に佇んで、村人に頭を下げる。
「この川沿いの道を真っ直ぐに行ったところにわしの家がある。
もし、何か困ったことでもあれば、訪ねてきてくだされ」
村人は、現れた時と同じく車輪を鳴らして、牛車とともに去っていった。