◇桜ものがたり◇
「さぁ、祐雫、まだ先は長そうだよ。
婆やの持たせてくれた麦茶を飲んでから進もう」
光祐は、背負い鞄から水筒を取り出すと、祐雫と一緒に喉を潤した。
「父上さま、ここはとても不思議なところでございますね」
祐雫は、紺碧の空を見上げながら、夏だというのに身震いする。
「地元の方でさえ、神の社を知らないのだから、手紙が届くはずもない」
光祐は、祐雫に気付かれないように、小さな溜め息を吐くと、
気を取り直して鞄を背負う。
「さぁ、神の森に随分近付いたよ。
祐雫、あともう少しの辛抱だからね」
光祐は、祐雫に声をかけつつ、不安を押し遣って、自身を奮い立出せる。
「はい、父上さま」
祐雫は、汗で濡れた髪の雫を拭って、返事をする。