◇桜ものがたり◇

 光祐は、神の森に一歩ずつ近付くに連れて、空気の重さを感じていた。

 歩みが重く、前方に壁が立ちはだかっているように感じられる。


(祐里、迎えにきたよ)

 光祐は、重い壁を押すように進みながら、祐里のことを想った。


「父上さま、大丈夫でございますか。とても苦しそうにございます」

 祐雫は、光祐の表情を見つめ、何も考えずに前に歩み出た。

 すると光祐が感じていた空気の重さは、不思議なことに和らいだ。


「祐雫、わたしは神の森から拒絶されているようだ。

 祐雫が先に歩いておくれ」

 光祐は、大きく息を吸いこむ。

 牛車の村人が川を渡らなかった訳が分かるような気がした。

 もうすでに神の森の領域へ、足を踏み入れているようだった。


 不思議なことに祐雫は、暑さも感じず、先ほどよりも元気が沸いてきた。

 この地の空気がどこか懐かしさを漂わせていた。

 まるで母の胎内にいた頃のような気分に浸る。


 途端に遠くに見えていた神の森は、瞬く間に目前へ迫ってきた。



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