◇桜ものがたり◇

 祐雫は、湖の辺(ほとり)へ投げ出されていた。

 ゆっくりと起き上がった祐雫は、ワンピースの土を掃って、

 白い霧に包まれた湖を見渡す。


「父上さま」

 祐雫は、静かに瞳を閉じて、光祐の気配を窺った。



 ◇◇◇祐雫◇◇◇


 
 神の森の呼び声とともに、湖が虹色に輝き始めた。


 祐雫は、湖へと惹き寄せられるように近付いて、水面を覗きこむ。

 湖の水面には、蜘蛛の糸に絡まれた祐里の姿が映し出された。


「母上さま」

 祐雫は、祐里の姿に、こころを痛めて、躊躇なく手を差し伸べる。

「あっ」

 突然に虹色の靄が祐雫を包み込んで、湖に取り込んでいった。


 湖は、生贄として祐雫を封じ込めると、

 若い美しさを吸収して、ますます美しい虹色に輝いた。


 祐雫が吸い込まれた湖面には、薄紅色の桜の花弁が、

 祐雫の足跡を示すかのごとく、ひとひら浮かんで、波紋を奏でていた。

< 264 / 284 >

この作品をシェア

pagetop