◇桜ものがたり◇
静謐
「光祐さん……光祐さん、しっかりなさいませ」
遠い彼方から懐かしい声が、波紋のごとく響いてきた。
それは、濤子(なみこ)御婆さまによく似た優しい声だった。
「おばあさま」
光祐は、目を開ける。
抱きしめていたはずの祐雫が、
桜色の着物を纏った美しい女性に変わり、
光祐は、その女性に抱かれていた。
辺り一面には、桜の香りが漂い、光祐は、この摩訶不思議な状況下に
身を置きながら、女性に抱かれて、安らいだ気分に浸っていた。
「お屋敷の行く末は、光祐さんに懸かっておいででございます。
祐里さんを救えるのは、光祐さんだけでございましょう。
しっかりなさいませ」
美しい女性は、光祐を勇気づけるかのごとく静かに微笑んだ。
「あなたは……」
光祐は、遠い記憶を辿った。
「わたくしは、桜河麗櫻(りおう)と申します。
何時でも光祐さんを見守ってございます」