◇桜ものがたり◇
その瞬間、木立の間から、眩しい光が射して、
我に帰った光祐の腕には、祐雫が抱かれていた。
「祐雫、大丈夫」
光祐は、祐雫を気遣いながら、ゆっくりと揺り起した。
「父上さま、祐雫は、大丈夫でございます。
それよりも、母上さまを早くお助けくださいませ。
大きな蜘蛛の巣にかかっておいででございます」
祐雫は、光祐の大きな胸の中で安堵して、
湖面に浮かんだ祐里の痛々しい姿を光祐へ伝えた。
光祐は、祐雫の無事を確認して、辺りを見回す。
湖は、跡形もなく消え失せ、木立に囲まれた祠が目前に現れた。
しかも、不思議なことに、祐雫共々、
湖の水に濡れている筈の身体が乾いていた。
懐かしい桜の香りに誘われて、
見上げた先の祠(ほこら)の扉が音もなく開いて、
白い狩衣姿の祐里が目に飛び込んできた。
祐里は、蜘蛛の糸で、雁字搦(がんじがら)めにされ、その痛々しい姿に、
光祐は、痛みを覚える。