◇桜ものがたり◇
社の前では、余所者の気配を感じ、
冬樹が両手を広げて立ち塞がっていた。
「何故じゃ」
森中を渡った神の声が冬樹の声と重なる。
「祐里と優祐を連れて帰ります」
光祐は、祐里をしっかりと抱きかかえて冬樹と対峙した。
冬樹は、春樹以外の人間が、
小夜を抱きかかえている現実を目の当たりにして動揺する。
「小夜は、幻だったのか。
そうだった、祐里は、小夜の娘だったな」
冬樹は、白昼夢から醒めたように頭の中が晴れ渡り、自問自答した。
(わたしは、四半世紀もの間、一体何の為に生きてきたのだろう)
冬樹は、自身に問いかける。
その自己への探求とともに森の御霊(みたま)が、
冬樹の周りへ集まってくる。
光祐と祐里は、静かに冬樹の変化を見守っていた。