◇桜ものがたり◇
帰りの支度が整い、別れの挨拶が終わると、
冬樹の指し示した方角に、満開の桜の大樹が現れた。
「優祐くんが植えた桜の樹だ。
しっかりと神の森に根付いて、瞬く間に大樹になった。
北の地では桜は不吉とされてきたが、
不思議と神の森へ邪悪なものを寄せ付けないよう守護してくれている」
冬樹は、優祐を見て、大きく頷いた。
「冬樹叔父さま、どうぞ桜の樹を大切になさってください。
来年の夏休みには、またこの森へ遊びに来てもよろしいですか」
優祐は、広大な神の森が気に入っている。
「いつでも、来たい時に来るがよい。
ここは、優祐くんのお爺さまの生地なのだからね。
私たちも歓迎するよ」
優祐の問いに冬樹は、ゆったりとした笑顔で答えた。
「はい。ありがとうございます」
優祐は、冬樹に向って喜びの笑顔で頷き返す。
「光祐くん、祐里を宜しく頼みます。
祐里、しあわせにな」
冬樹のこころから春樹と小夜への怒りが消え去り、
父親のような大らかな気持ちで、祐里を抱きしめる。
「どうぞ、冬樹叔父さまも、雪乃叔母さまとおしあわせに
お過ごしくださいませ」
祐里は、冬樹の広い胸の中に、父親を感じ、そのしあわせを祈る。