◇桜ものがたり◇
祐里は、自室に戻ると、箪笥から振り袖を取り出して、
衣紋掛けに掛けた。
奥さまが桜河家へ嫁入りの時に持参した振り袖は、
桜色地に満開の桜文様が総刺繍で施された逸品
(奥さまの母上さまがその一部をご自身で刺繍された想い入れの御品)で、
先日の晩餐会に旦那さまの御供をすることになって、
奥さまから賜った振り袖だった。
衣紋掛けに掛けられた振り袖は、春爛漫を描いた屏風絵のように
祐里の部屋を晴れやかにする。
祐里は、胸騒ぎを覚えながらも、
(はじめて振り袖姿をご覧になられた光祐さまは、
どのようにおっしゃってくださるのでしょう)
と、想像して、胸の内がくすぐったく、ほんのりとするのだった。