◇桜ものがたり◇
先程まで上機嫌だった光祐さまは、怖い顔をして文彌を凝視している。
祐里は、不機嫌な光祐さまの様子が気になって仕方がない。
榛様をお迎えする玄関先で、式服姿の立派な光祐さまと並んだ時に、
祐里は、振り袖姿を光祐さまから褒めて頂けるものとばかり、
ドキドキしながら、期待していたのに、
光祐さまは、無言のまま、祐里と視線を合わせようとはしなかった。
祐里は、居心地が悪く、文彌との会話や会食も、上の空で、
(早く時間が経つとよろしゅうございますのに)
と、念じていた。
光祐さまは、自分以外に向けられた祐里の艶やかな振り袖姿が、
腹立たしくて仕方がなく、祐里から視線を反らせていた。
祐里が隣で心細気にしている様子を分かっていながら、
どうすることもできない自分自身に腹を立てていた。