◇桜ものがたり◇
「祐里は、現在(いま)は十五でも、この春で十六になり、
嫁に行ける歳になる。
突然のことで驚いているが、榛様を気に入ったようで、
全て私に任せると申しておる。
祐里が望み、榛様から是非にと請われて行くのだから、
願ってもない縁談ではないかね。
光祐は、桜河家の後継ぎで、祐里の兄なのだぞ。
可愛い祐里を手放すのは、淋しいけれど、
可愛い妹のしあわせな結婚を喜んでやるべきではないのか」
旦那さまは、まだまだ子どもだと思っていた光祐さまの熱弁を聞いて、
成長を感じつつも、お屋敷の当主としての威厳を保持する。
そして更に、光祐さまは兄であり、祐里は妹である立場を強調した。
「祐里のしあわせは、ぼくも望んでいます。
でも、祐里は、未だ十五ですし、進学も決まっているのですから、
結婚話は女学校を卒業してからでも遅くはないでしょう。
それに榛家は、良家でしょうが、
文彌さんは、しっかりとした人物なのですか。
昨日の文彌さんの態度を拝見したところ、祐里を大切にして、
本当にしあわせにしてくれるとは決して思えません」
光祐さまは、祐里を守り通さねばと心に決め、
真剣に粘り強く旦那さまへ訴え続ける。