◇桜ものがたり◇
駅前に車を駐車して、改札口を出ると、
遠くから列車の汽笛が聞こえてきた。
祐里と森尾は、線路の先を見つめ、
列車が接近する音と心臓の音が呼応するのを心地よく感じていた。
定刻通りに列車が到着し、
駅員が「さくらかわ~、さくらかわ~」と駅名を呼称する中、
下車する乗客の一番後ろから光祐さまの姿が覗えた。
光祐さまは、祐里が想像していた以上に長身になり、
長旅の疲れも見せずに、爽やかな笑顔で列車から降り立った。
「祐里。帰ったよ」
光祐さまは、下車した乗客たちが足早に立ち去った後の
長閑な二番線に佇む祐里を見つめ、
祐里の上気して桜色に染まった頬の健やかな表情に引き寄せられる。
「光祐さま。お帰りなさいませ」
祐里は、丁寧にお辞儀をした後、
光祐さまのきらきらと眩しい姿を仰ぎ見て、
例えようがないくらい胸がしあわせでいっぱいになる。