◇桜ものがたり◇
「光祐坊ちゃま、お帰りなさいませ。ご立派になられて、
爺は、嬉しゅう御座います」
森尾は、深々とお辞儀をして、
涙ながらに光祐さまの重い鞄を受け取った。
「ただいま、爺。元気そうで何よりだ。
ぼくは、祐里と散歩しながら家へ戻るから、爺は先に帰って、
母上さまへ無事に着いたことを知らせておくれ」
光祐さまは、森尾に優しいまなざしを向けながら、
上着のポケットから蜂蜜飴の缶を取り出して、森尾に手渡した。
「爺、土産の蜂蜜飴だよ」
光祐さまのまなざしは、森尾のこころに甘く沁み渡る。
光祐さまは、帰省の度に、森尾の喉が弱いことを配慮して、
蜂蜜飴を持ち帰った。
「光祐坊ちゃま、誠に有難うございます。
それでは、先に戻りまして、奥さまにお伝え申し上げます。
どうぞ、光祐坊ちゃま、祐里さま、お気を付けてお帰りくださいませ」
森尾は、光祐さまと祐里に深々とお辞儀をすると、
光祐さまの鞄を積み込んで、お屋敷へと戻って行った。