◇桜ものがたり◇
「祐里、十六歳のお誕生日おめでとう。ぼくからの贈り物だよ」
光祐さまは、ポケットから桜の花の首飾りを取り出して、
祐里の首へかける。
「光祐さま、ありがとうございます。
とても嬉しゅうございます。
大切にいたします」
祐里の笑顔とともに、白い肌の上で、桜の花の首飾りが小さく揺れた。
「ここにこうしていると、子どもの時のままのように感じるね。
何時も祐里が側にいた。昨日も今日も明日も変わることなく……
このまま都に連れて行きたいくらいだよ」
光祐さまは、大きな石の上に腰かけ、祐里も横に座った。
「光祐さまが中学に進学された時は、淋しい想いをいたしました。
祐里も都に行きとうございました。
でも、これからは、淋しくても、旦那さまと奥さまにお仕えして、
光祐さまを信じてお待ち申し上げます」
祐里の瞳の奥には、光祐さまから愛されているという自信が覗われた。
それは、今まで孤児として、身の拠り所のなかった祐里の確固たる
居所であり、自信へと繋がる。
光祐さまと祐里は、お腹がすくまで寄り添って、
春の陽射しに映える桜池を投合しながら見つめていた。