◇桜ものがたり◇
守人
光祐さまが都に戻り、
祐里は、女学校への入学準備で慌しい日々を過ごしていた。
文彌からは、執拗なまでに恋文が届けられた。
心配する旦那さまと奥さまの厚意で、
祐里は、森尾の車で女学校に通学することとなった。
入学して一月経った女学校の帰りに、祐里は、図書館へ立ち寄る。
窓の外では遅咲きの桜の花弁が陽射しの中で舞っていた。
探していた本に、背伸びして、ようやく手が届いた祐里の背後から、
星稜高等学校の制服姿の男子が、すっと本を取って渡してくれた。
「どうぞ」
「ありがとうございます」
祐里は、長身の男子を見上げてお辞儀する。
「難しい本を読むんだね」
優しい視線が注がれた。
「先生が薦めてくださった本でございますの」
祐里は、光祐さまの他に、
親しく話しかけてくる男子に出会ったことがなく、
心臓がドキドキする不思議な気分を感じた。
祐里は、慌ててお辞儀をすると、逃げるように貸出受付へ向かった。