◇桜ものがたり◇
白百合女学院の近くには、星稜高等学校が在り、
春の花咲く学園通りは、行き交う男子学生と女子学生で賑やかだった。
「萌、毎日、声をかけられて困ってしまう」
萌は、取り巻きの級友に、毎朝声をかけられた人数を
自慢するのが楽しみだった。
女学校の制服も、萌の生地は舶来物で仕立てがよく、
一目瞭然で良家のお嬢さまと誰もが認めた。
「萌さまは、可愛くていらっしゃるから」
祐里も級友たちも声を揃えて相槌を打つ。
「祐里さまは、桜河のお嬢さまだから、
みなさん、遠慮されて声をおかけになれないのでございますわ。
それに虫が付かないようにお抱え運転手付きでございますし。
今度の土曜日の昼食会へ、祐里さまもご一緒しましょう。
杏子さまのお家の銀杏亭をお借りして、
星稜の方々と盛大にいたしますの。
萌からも薫子叔母さまにお願いいたしますから」
萌は、学校が終わると、すぐに帰ってしまう祐里を昼食会に誘いたくて、
林杏子に目配せする。
萌は、幼馴染の久世春翔(くぜはると)と共に昼食会を企画していた。
「そういたしましょう。
萌さまと祐里さまがお揃いになれば、杏子の家の銀杏亭は、
三ツ星レストランに格上げですもの」
杏子は、萌の気持ちを察して、祐里を誘う。
勿論、杏子は、昼食会の企画に積極的に加わっていた。
「それでは、ご一緒させていただきます」
女学校の級友たちは、祐里が『榊原祐里』と名乗っているにも拘わらす、
違和感なく桜河のお嬢さまとして接していた。