◇桜ものがたり◇
「杏子は、小さな頃から、お調子者だから、気にしなくていいよ。
噂の姫に早速会えて光栄だな」
柾彦は、女子学生との昼食会には全く興味がなく、
誘われても断っていたが、今回は、幼馴染の杏子から、
「桜河のお屋敷の祐里さまもいらっしゃるのよ」
と聞かされて、参加する事にしたのだった。
柾彦は、自己主張ばかりの鼻持ちならないお嬢さま方が苦手だった。
初めて見かけた図書館といい、今日といい、
祐里は、控えめで可憐であった。
「何か悪い噂になってございますの」
祐里は、心配顔で柾彦を見つめた。
柾彦は、心配顔の祐里が可愛く思える。
「我が校では、車窓の美女で有名だよ。
送迎の守りが固くて、誰も姫へ声をかける事が出来ないって」
柾彦は、大袈裟な身振りを交えて話した。
祐里の真横で、会話ができ、気分が舞い上がっていた。
「まぁ。私は、そのような御伽噺のお姫さまではございません」
祐里は、慌てて否定すると恥ずかしげに俯く。
「その証拠に、ほら、何人も姫に視線が釘づけですよ」
柾彦は、祐里の香りを感じ、さらに高揚した気分になる。
祐里は、柾彦に促される形で周囲を見回すと、
それぞれの視線に穏やかな会釈を返した。