◇桜ものがたり◇
銀杏亭の柱時計が午後三時を打った。
「鶴久さま、迎えの車が参ります。
本日は、お相手をしていただいて、
とても楽しく過ごさせていただきました。
ありがとうございました」
祐里は、柾彦に丁寧にお辞儀をして、立ち上がる。
「もう、帰ってしまうの。また、会えるよね」
柾彦は、一緒に立ち上がり、出入り口の扉まで、祐里を見送りに出る。
「ご縁がございましたら、またお目にかかりとう存じます」
祐里は、柾彦を見つめて、にっこり微笑む。
柾彦は、祐里の笑顔に見惚れて、言葉を失くした。
森尾の車が銀杏亭の前に停まり、
祐里は、杏子と萌に別れの挨拶をして外に出た。
「祐里さま、柾彦さまを独占でしたわね」
杏子が祐里の耳元で囃(はや)し立て、
萌は、幼馴染みの久世春翔(くぜはると)と
一緒に祐里へ手を振った。