◇桜ものがたり◇
しばらくして、柾彦は、立派な風格のある旦那さまと
祐里が一緒に絵画を鑑賞している姿を遠くから見つめる。
旦那さまは、祐里をゆったりとした微笑で包み込み、
目の中に入れても痛くないといった様子を見せていた。
それに応えて、祐里も、しあわせ溢れる笑みを返している。
柾彦は、噂に聞くと本当の娘ではないらしい祐里が、
旦那さまに大切にされているのが分かり、
何故だか嬉しく感じられた。
「綺麗な方でございますわね。桜河のお嬢さまでしょう」
気が付くと柾彦の後ろに、意味ありげな笑みを浮かべて、
母の結子が立っていた。
堅物(かたぶつ)の柾彦が、女性の姿を瞳で追っている様子に、
成長を感じていた。
「母上、いつの間に」
ドキッとして、柾彦は、振り返った。