◇桜ものがたり◇
「お屋敷の花は、ぼくが持つよ。
姫には、ぼくの作った花束がお似合いだから」
柾彦は、祐里の摘んだ秋桜と鋏を受け取り、
一抱えになるくらいの秋桜を摘み取った。
祐里は、小さな花束を抱えて、
柾彦の仕事ぶりを微笑んで見つめていた。
「柾彦さま、お屋敷にお寄りくださいませ。
奥さまは、お留守でございますが、
紫乃さんの美味しいおやつをご一緒にいかがでございますか」
祐里は、一所懸命に秋桜を摘む柾彦に、
感謝の気持ちを伝えたくてお屋敷に誘う。
「紫乃さんのおやつは、絶品だもの。
それでは、姫、お手をどうぞ」
柾彦は、躊躇う祐里の手を取って、しあわせな気分で歩き出す。
川原を上って桜橋を渡ったところで、祐里は、柾彦から手を離した。
「柾彦さま、どうぞ、お先にお歩きくださいませ」
祐里は、柾彦の後ろへ下がる。
「姫、遠慮せずに並んで歩こうよ。
姫は、桜河家の姫なのだから」
柾彦は、立ち止まって、祐里を振り返って促す。
家並みの続く道で、
柾彦は、元気よく
「こんにちは。秋桜をどうぞ」
と、出会った衆(みな)へ挨拶をして秋桜を配る。
祐里は、頬を赤らめて、柾彦の横で、衆(みな)に挨拶をする。
衆(みな)は、柾彦の堂々とした明るい振る舞いに好感を持ち、
通り過ぎた後に、祐里とお似合いだと語り合った。