◇桜ものがたり◇
「ただいま帰りました」
祐里が玄関の扉を開けると、菊代が迎えた。
「祐里さま、お帰りなさいませ。
柾彦さま、いらっしゃいませ。応接間へご案内いたします」
菊代は、柾彦へ恭しく頭を下げる。
「菊代さん、こんにちは。どうぞぼくにお構いなく」
柾彦は、勝手知ったる我が家のごとく台所へと進む。
「柾彦さまのお好きなように」と菊代へ目配せして、
柾彦の後ろを追いかける祐里の気持ちは、華やいでいた。
「紫乃さん、こんにちは。
ご褒美のおやつをいただきに、姫を川原から送って来ました。
はい、どうぞ、おみやげの秋桜です」
柾彦は、台所の紫乃にひと抱えの秋桜を手渡すと椅子に腰掛ける。
「柾彦さま、いらっしゃいませ。
綺麗な秋桜でございますね。ありがとうございます。
柾彦さまは、お客さまでございますので、
どうぞ応接間へお越しくださいませ。
すぐにおやつをお持ちいたします」
紫乃は、秋桜を受け取ると、慌てて応接室へと導く。