◇桜ものがたり◇
夕方になり、祐里は、桜橋まで、柾彦を送って出た。
ちょうど、夕日が傾きかけて、
桜川に沿った秋桜の薄紅色の帯を茜色へ染め始めている。
「柾彦さま、夕日に染まる秋桜が綺麗でございますね」
祐里は、茜色に染まる柾彦の顔を見上げる。
「本当に楽しい午後だったね。
締めくくりにこのように綺麗な夕日を姫と一緒に見られたし、
最高の一日だ」
柾彦は、秋桜を背景に茜色に染まる祐里の美しさに見惚れて、
祐里を愛したい衝動に駆られながらも、
守人として、祐里と共に過ごせる喜びを噛み締める。
一途に光祐さまを慕っている祐里を横恋慕して、
良好な付き合いを望んでいる祐里の気持ちを
傷つけ悲しませることは慎みたかった。
「このように綺麗な景色を柾彦さまとご一緒に拝見できまして、
私は、嬉しゅうございます。
柾彦さま、本日は楽しいひとときをありがとうございました」
しばらくの間、柾彦と祐里は、言葉を忘れて、
茜色に染まる秋桜を寄り添うように並んで見つめる。
茜色の和やかな時間は、
祐里の心をほのかに柾彦へと傾かせていた。