世界を滅ぼしかねない魔王に嫁いだお姫様。
10分ほど歩いた頃だろう。ふと、外のバルコニーに目をやると、黒いタキシードを緩く着ている若い男が、手すりに寄りかかってこちらを見ていた。
ミラはなぜか目をそらすことができず、引き寄せられるように彼へ近づいた。
バルコニーへの扉をあけると、強い風が吹き、いつもは深い闇がかかっているのに、そこだけ空気が澄んでいた。
少年は片時も目を離さず、ミラを見つめていた。
近くで見ると、その少年は、のみこまれそうな切れ長のオニキスのような瞳に、襟足の長い絹のような髪、美術館の作品のような…、この世のものとは思えないほど綺麗だった。
《どこの国の人だろ…》
ミラはその少年から目が離せず、しばらく見つめあっていたら、少年が一歩ミラの方へ近よった。
「迎えにきた。」
唐突に放たれた低い声に、ミラは聞き覚えがあった。