―君ノ隣―


私たち4人は病室を出て担当医の話を聞いた。

話によると、手術は成功したが頭の打ち所が悪く記憶を失ってしまったらしい。


「智樹の記憶は戻るんですか?」


「日常生活に戻れば戻るかもしれません。
生活に支障もないと思いますし、まだ軽い記憶喪失なので、
時間はかかると思いますが戻る可能性は高いです。」



そう言って担当医は去って行った。

残された私たちの空気は氷のように冷えきっていた。

言葉も交わさずただ呆然としていた。



「ねぇゆーちゃん。」


「ん?なに?」


「なんでおにぃちゃん、みんなのことわかんないの?」


「それは…。」



なんて答えたらいいんだろ。こんな小さな子になんて言えば分かりやすいのかな。

すると竹井くんが私の横に来て二人と目線を合わせて言った。



「お兄ちゃんは記憶がないんだ。みんなのこと忘れちゃったんだ。
でも二人がいい子にしてたら神様が魔法をかけてくれる。」


「まほう?」


「いい子にしてたらみんなのことわかるようになるの?」


「そうだよ。だからいい子になるだぞ?」


「うん!」


「しゅうくんいいこになりゅ!」


二人は笑顔でうなずいた。すると洋くんや和真くん、亜由加と政くんも笑顔になった。

私もいつまでも泣いてたらだめだよね。

智くんの記憶が戻ることを信じなきゃ。

この日は面会時間ギリギリまで話してから帰った。


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