お風呂上がりの望遠鏡
路面電車がやってきた。
私は窓に背を向けてベンチシートに腰掛ける。
でも、押領司クンはつり革に手を掛けて、私の前に立ったままだ。
私は隣の席を手で軽く叩いて、そこに座るように押領司クンに催促する。
「いや、ここで、いいっす」
「だめだめ、ここに座って」
「でも、隣りに座ると顔が見れないじゃないですか」
(えっ?)
隣のおばさんの視線が私に向いた。
ちょっと痛い。
私も若い頃は押領司クンみたいに、こんなに真っ直ぐだったかしら。