お風呂上がりの望遠鏡
何か気の利いたことを言いたいのに、思い浮かぶのはどれもこれも陳腐なセリフばかり。
何事もなく育ってきた私が、押領司クンやご両親、ましてや妹さんを責められるはずがない。
きっと、誰のせいでもない。
どこかでちょっと食い違っただけ。
歩きながら押領司クンが言った「仕方ないですもんね」という言葉が心に染み込んでいく。
私は押領司クンの手を取った。
そして、驚く押領司クンの目を見つめながら、私の手越しに押領司クンの手にキスをした。
押領司クンの手に力が入る。
なぜか、引っ張り合いになる。
「ちょっとぉ、嫌がってるでしょ」
「そ、そんなことないっすよ」
頬を紅潮させながら、押領司クンに笑顔が戻った。