お風呂上がりの望遠鏡
「何なんですか、突然」
私にそう責められ、加奈ちゃんのお父さんは憮然とした表情を見せた。
「加奈をたぶらかすようなことは言わないでいただきたい」
「そ、そんなこと、何も言ってません」
私は怒りが込み上げて声が震えた。
感謝されこそすれ、こんなことを言われる筋合いじゃない。
何も言わない押領司クンは、隣のイスを引いて、加奈ちゃんのお父さんに座るよう、促した。
でも、加奈ちゃんのお父さんは座ろうとせず、一枚の名刺を差し出した。
それはさっき私と押領司クンが加奈ちゃんに渡した名刺だった。
「なにが辛いときには電話してね、だよ」
押領司クンはその名刺を受け取ろうとしたが、加奈ちゃんのお父さんは押領司クンに触れさせまいと手を引っ込めた。