お風呂上がりの望遠鏡
「それは加奈ちゃんに渡したものです」
声の大きくなった押領司クンを脅すように加奈ちゃんのお父さんは声を荒げた。
「だから、加奈にちょっかい出すなって言ってんだよ」
「どうしてですか。どうして、加奈ちゃんを悲しませるようなことするんです。今だって、加奈ちゃん、泣いてるじゃないですか」
私が振り向くと、そこにはイスにちょこんと腰掛け、テーブルの一点を見つめたまま、微動だにしない加奈ちゃんがいた。
「確かに娘に辛い思いをさせてるバカな父親だよ。だからって、通りすがりの他人に施しを受けるような躾はしてないんだよ」
加奈ちゃんのお父さんはそう言うと、その名刺を破り、更に重ねて破ってテーブルの上に放り投げた。
「あー、気分が悪い」
そう言い残すと、加奈ちゃんのお父さんは私の顔をちらっと見て、加奈ちゃんのいるテーブルに帰っていった。