お風呂上がりの望遠鏡
「施しだなんて・・」
押領司クンは言葉を詰まらせた。
私はテーブルに散乱した名刺を拾い集める。
手書きの押領司クンの文字が目に入る。
なんだか、無性に哀しかった。
「すいません。台無しにしちゃって」
「ホントにそう。全部あのオヤジのせいだよね」
押領司クンは隣の隣の席に視線を飛ばした。
「でも、押領司クン。あのオヤジのせいで、私たち親密になれたと思わない?」
「そ、そうっすね」
私の大胆発言を受けて、押領司クンは少し笑ったような顔になった。
早々に食事を終えると、私たちは席を立った。
帰り際、押領司クンは何か言いたそうに加奈ちゃんのお父さんを見つめていた。
でも、加奈ちゃんのお父さんは押領司クンの視線を避けるように、あやちゃんの食事の世話をしている。
私はそのすき間を縫うように加奈ちゃんのポケットに自分の名刺をすべり込ませた。