My princess story ~我は将軍様!?~
我は舞鈴
《舞鈴side 》
我は舞鈴。年は15。
江戸時代、徳川将軍の長女。
つまり、姫である。
物心ついた時には、すでに隣には時定がおった。
古くから徳川家につかえている鳴門家の68代目である。
その辺の大人よりも非常に優秀で、時定が10の頃には、当時6つであった我の世話係りについていた。
6尺はある高い身長に、切れ長の目。
通った鼻筋。
我の隣においても劣らぬその容姿は、役者なら1000両は稼げたであろうほどだ。
鳴門家の人間は、徳川家をお護りするために、幼き頃から剣術を習う。
時定は剣術においても、鳴門家始まって以来の秀才と呼ばれた。
征夷大将軍の長女である我の命を狙う者は少なくない。
そんな無礼者には、少しも手加減せずに真剣で斬り倒してきた。
あらゆる戦においても、伝説の剣使いとして名を残し、我らを救ってきた。
今や徳川家は、時定なしでは国を納められまい。
そんな時定は、我がこの世で最も愛する人物である…。
「…ん」
どれだけ時が過ぎたであろうか。
我は目を覚ました。
「舞鈴姫!お目覚めでございますか。」
「あぁ…。」
「体調がよろしくないとお聞きしまして、駆けつけた次第でございます。」
透けた暖簾から、心配そうな時継の姿が見える。
時継は、時定の実の父だ。
我は布団から出て立ち上がり、暖簾をめくった。
部屋の中にいた大勢の女達が一斉に頭を下げる。
「もう心配はいらぬ。ちょいと無理をしてしもうただけじゃ。」
それを聞いて、安心した表情を浮かべる時継。
「さようでございますか。あまり無理はなさらぬよう、お願い申し上げます。」
「うむ。すまぬ。ところで時定はどうした?」
「只今時定は剣術の稽古をつけております。こちらに参るようすぐに知らせにあがります。」
時定は稽古であるのか。
「待つのだ、時継。稽古の邪魔をするわけにもいかんだろう。」
華美な襖へ歩く。
「姫、そのような御体ではまだ部屋でお休みになられた方が…。」
またもや不安そうな顔で我を見つめる時継。
動くには重たすぎる華やかな着物の裾を女達が持ち上げる。
「少しくらい良いではないか。我が参ろう。」
時継は軽くため息をつき、微笑んだ。
時定に似た美しい笑みだ。
「…今回は特別ですよ。姫がおいでなら、時定もさぞ喜ぶことでしょう。」
長い廊下を渡り、庭の一角にある稽古場へとやって来た。
背筋をぴんと張り、稽古に励む時定の姿。
惚れ惚れする…。
みとれていると、我の姿に気付いたのか時定が驚いた顔をしてやって来た。
「姫!体調はもうよろしいのですか?」
「我を誰だと思うとるのじゃ。」
時定は微笑んだ。
あまりにも美しい笑みに、顔が赤くなるのがわかった。
だめじゃ…。
この顔は誰にも見せられまい。
とっさに袂で顔を隠す。
「どうされましたか?」
時定は心配そうに我に手をさしのべる。
「…まだ本調子ではない故、少し目眩がしただけじゃ。」
周りの者があわあわしだした。
「それはいけませぬ!私が寝床までお運び致します。」
そう言って、重たい着物をまとった我をいとも簡単に抱き上げた。
!!!
「心配はいらぬ!下ろすのじゃ。」
「大人しくなさってください。無理は禁物です。」
つくづく我に甘いのだから仕方がない。
大人しく時定の胸に顔を埋める。
彼の香りが我を包む。
見上げれば、ほんの6寸程度の距離にあの美しい顔が見える。
愛しておるぞ、時定…。