白い金の輪
当時の私は山間の村で、家族と共に近所の農家を手伝いながら暮らしていた。
八人兄弟の長子として生まれた私は、幼い頃から兄弟の面倒を見るのが忙しく、学校もろくに行っていない。
かろうじて読み書きと計算が出来る程度で、学のない私に出来る仕事など、家の手伝いくらいしかなかった。
いずれは近所の農家の三男坊にでも、嫁ぐ事になるのだろう。
大して希望もないけれど、さして不幸でもない。
平凡な日々を漫然と繰り返していた時、私は”彼”に出会った。
家の遣いで町へ向かうバスの中、偶然隣に座ったのが彼だった。
山間の村から町へと続く単調な道のりに退屈して、ぼんやりしている私に彼は親しげに話しかけて来た。
二枚目俳優によく似た陽気で明るい彼に、私は一目で虜となった。
家に帰っても彼の事が忘れられず、気が付けば家出同然に飛び出して、町へやって来た。
バスの中での会話を頼りに、彼の家を探し歩く。
日が暮れかかる頃、ようやく彼の営む小料理屋を探し当てた。
彼は始め少し驚いたようだったが、快く私を迎え入れてくれた。
私は店の奥にある彼の家で、店を手伝いながら彼と暮らし始めた。