スイート・ペイン
甘い傷
昼食をとるために訪れた大学内のカフェテリアは、お昼どきということもあるのか、混みあっている。
「ねえ」
にぎやかな喧騒の合間を縫うように、ふいに向かいに座る彼に声をかけられた。
サンドイッチを頬張っていた手を止めて、顔をあげる。
「何?」
「ずっと気になってたんだけど、ここのって、虫さされ?」
彼が指差した先は、鎖骨の左下あたり。
日中の気温が徐々に上昇してきて、汗ばむ陽気のこの頃。
ちょうど胸ぐりの大きくあいたカットソーを身につけていた。
そこには、赤い点。
何かの傷跡のような、小さなしみのような。
けど、虫さされなどではない。
ゆうべ、彼氏につけられたキスマークのあとだ。
彼氏は別の大学に通い、知りあったのは合コンだった。
何かでカバーできればよかったのに、あいにく、コンシーラーを切らしていた。
気づかれてもおかしくはない位置だけど。
「虫さされ、みたいなものかなあ」
愛想笑いでごまかす。
だけど、そんな小手先の言い訳が通用する相手じゃないことは、わかっている。
中学の同級生だった彼とは、腐れ縁のようなもので。
なんの因果か、高校だけじゃなく大学まで同じで、友だち関係が何年も続いている。
お互い、どちらかに絶えず彼氏がいたり、彼女がいたりして。
つかず離れずといったところか。
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