スイート・ペイン
「虫さされ、ねえ。どんな悪い虫だか」
「べつに悪い虫なんかじゃないし! 今度のは絶対に……!」
言ってしまってから、ハッと口をつぐむ。
これって、まさか。
「引っかけたの?」
「勝手に引っかかっただけだろ」
「ひどい!」
「ひどいのはそっちだろうが。俺を誘惑してるんだろ。けっこうそそられる」
え、と耳を疑った。
今の発言の真意は、いったい。
誘惑しているつもりなんて、ないのに。
どうして。
疑問を投げかけるよりも一瞬早く、彼が口を開く。
「ずっと前からおまえのこと、いいなあって思ってたんだよ」
「でも……」
「大学だって、わざと一緒のとこ入ったってのに」
目を見開いて、正面の彼を見返す。
顔を紅潮させた彼は、いたって真顔で。
とても冗談で言っているようには見えない。
本当に、そんなことが?
「私、彼氏、いるよ?」
「なら、奪うまでだ」
にやり、と唇を不敵に歪めた彼は、勝ち誇っているようで。
そんな顔を見せる彼を、誰よりも近くで見ていたいなんて。
ずっとひそんでいた気持ちに、今さらのように気づくなんて。
だから。
何年も続けてきた友だち関係を、今こそ、終わらせよう。
【完】