お兄ちゃん…キス、して?
「あ、柚。あっちに月山くんがいるよ」
「えっどこに?」
ほらあっち、と指差した先は向かいの校舎へ繋がる渡り廊下。そこには月山くんと女子数人が喋っている姿があった。
「げ。また違う女の子連れてるじゃん…」
「今にはじまったことじゃないでしょ」
夏希の言う通り。彼、月山透夜くんは極度女ずきで学校では知らない人はいないくらいだ。
だから、はっきり言って私は彼が嫌い。
場所を問わずにいちゃつく男女の姿に嫌悪感を抱くのは私だけではないと思う。
「…っもう、いこ!」
だけど一番の理由は―――…。
"お兄ちゃんに似てる"
顔立ち、雰囲気、仕草…。
そのどれもがあの人に似ていて、別人と分かっていても重なって見えてしまう。
あの人の部屋から響く、
乱れた呼吸音と甘い声を思い出してしまう…。
違うと心が告げていても
頭の中でお兄ちゃんの顔が浮かぶ。
……外の世界でさえ、こんな感情を抱かなきゃいけないの?
……お兄ちゃんは
どこまでも私を拒絶するんだね――…。