ポケットに婚約指輪


「菫がちゃんと電話に出てくれるなら、会社でこんなことはしないけど?」

「何の話があるんですか。今更っ……私のことを捨てたくせに」

「それを後悔してるからさ」


舞波さんの手が、私の手首を掴んだ。
それは先ほどまでとは打って変わった強い力で。
心ごと掴まれたように、私の意識は一気にそこに引き込まれた。


「やっぱり菫といる時が一番落ち着くって分かった」

「離してください。そんなこと今更」


言われたってどうにもならない。
新婚旅行から帰ってきたばかりで、江里子と別れる気もないくせに。
簡単に心を動かすようなこと言わないで。


「……菫も寂しいんじゃないのか?」

「え?」

「彼氏ができたなんて嘘だ。そんな嘘ついてまで結婚式にあんなに着飾ってきたのは、見せ付けるためだろう、俺に」

「……それは」

「そして、俺は魅せられた。菫のせいだよ。あんなにキレイな姿を見せるんだ。俺は花嫁より君の方ばかり見てしまった」


彼の手が、顎の線をなぞる。
ゾクゾクとした感覚が私の体内を駆け巡る。

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