ポケットに婚約指輪

会話の一部始終を聞いて、いたたまれなくなった。

とにかく、見つかるのはまずいからと、レジとは反対方向のトイレに入る。
しばらく……あの二人が出るまではここにいよう。


トイレのドアにもたれかかりながら、ざわつく心臓を押さえる。


江里子が、なんとなくでも舞波さんと私の関係に感づいていることにも驚いたけど、このざわつきは質が違う。


――――ナンデ、江里子ヤ久実ニ、コンナ風ニ言ワレナキャナラナイノ


女としてのプライドが刺激される。

同期に、ここまで馬鹿にされるほど自分は落ちぶれていない。
そんな風にも思う。


ああ里中さん。
私はやっぱりそんなに真面目でも貞淑でもないです。

あんな風に言う江里子を見返してやりたい欲求が沸いてくるもの。


カバンの中から、腕時計を取り出す。

あなたの旦那さんは、あなたとの新婚旅行中、私の為にこんなものを選んでいたのよ?

それを自分の心の中だけででも誇示したかった。
その思いが私に腕時計をつけさせる。
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