ポケットに婚約指輪


「俺だけに綺麗な菫を見せてよ」


耳元で囁かれると、さざ波に似た快感が全身を伝っていく。


「違うんです。これをつけたのはただ」

「ただ?」

「その、……あまりにも素敵だったので」

「そう。気に入ってくれて嬉しいよ」


ふと、視界に影が差した。

それは舞波さんがかがんだからで。
気をとられているうちに唇が塞がれる。


「……ふっ、むっ」


声を出すこともままならない。

彼の唇は噛み付くような調子で私の唇を塞ぎ、彼の舌が下唇をなぞった後、歯列をなぞる。
そして自由に私の口内を犯し始める。

深く激しいキスに力が抜けてきて私は膝から崩れそうになった。

それを支えるように舞波さんは私を抱きしめた。唇を塞いだまま。

< 111 / 258 >

この作品をシェア

pagetop