ポケットに婚約指輪
「菫はもうすぐじゃないの? 言ってたじゃん。結婚間近の彼がいるって」
「え? ……あ、ああうん」
そういえばそんな嘘もついたんだっけ。
蒸し返されるたびに自分が嫌になる。
どうしてあんなことを言ってしまったんだろう。
「結婚式には呼んでね?」
「うん。……でも、もしかしたら無くなるかも」
「え? 喧嘩でもしたの?」
「そんなとこ」
曖昧にごまかして笑う。
そうだ。いつか別れたことにしておかないと話がおかしくなっちゃうんだわ。
……一時の感情で、なんて馬鹿なことしちゃったんだろう。
「でね。これ、菫にお土産。美術館で買ったストラップなんだ。ごめんね、あんまり大したものじゃなくて」
「ううん。皆に買うんなら大変でしょう? ありがとう」
「徹夫もこれがいいって言ってね、ほら、菫とは部署が一緒だから、どんなのがいいかなぁって相談したりして」
「そうなんだ。嬉しい」
「普段の菫の持ち物の色ともそんなに違和感ないかなって」
そのストラップはとある絵画の一部を複製したもので、色合いと言えば茶色が主の地味なものだ。
暗に地味な女と言われたような気がする。それは気にしすぎなのかしら。
だけど自虐的な考えにしか今はなれない。