ポケットに婚約指輪


「で、江里子。旅行の話聞かせてよ」


久実に促されて、江里子は色々なものを見せてくれた。
舞波さんとお揃いで買ったというお財布。
二人仲睦まじそうに寄り添う写真。

そこにいたのは、普通の新婚さんの二人。


……何が、俺には菫の方が落ち着く、よ。
ちゃんと江里子と仲良くしてるんじゃない。


そのうち料理が運ばれてきて、私たちは食べる方へ集中していく。


「ところでどうなの? 夫としての舞波さんは」

「えー? そうだなぁ」


久実がそんな話題を出し、江里子がのろけ混じりに話す。

彼女の口から飛び出る舞波さんは、妻思いのいい旦那様だ。
私に見せる姿とは違う。

どっちが本当なの?

私は何を信じればいい?


「いいなー。あたしも早く結婚したい」


久実のその一言で、会話は終わりになった。

何も信じないのが一番良いのかもしれない。

舞波さんは江里子の旦那様なんだもの。
浮気は悪いことで、愛人なんて最低だ。



……だから別れたんだったんでしょ? 私たち。




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