ポケットに婚約指輪

 その後、私たちは会社に戻った。

江里子は行きよりもずっと上機嫌。
この機嫌の良し悪しが周りにすぐ伝わってしまうところが、江里子の長所であり短所なのだろう。

機嫌のいい時はいいのだけど、自分が機嫌を損ねるようなことをしてしまった場合には最悪だ。

舞波さんも、こういうところに辟易してあのメールを書いたのかしら。



「あら、菫。何食べに行ってきたの?」


刈谷先輩も今日は機嫌がいい。

今日は午後から一緒に帳簿作成をすることになっているから、機嫌がいいと助かる。

ランチの店の情報交換をした後、社内メールのチェックをする。

事務手続きの問い合わせにまぎれて、舞波さんからのメールもあった。


【手伝って欲しい仕事があるので、手が空いたらよろしくお願いします】


これは本当の仕事?
それとも誘い?

顔を上げると斜め向かいの席の舞波さんと目が合う。
彼はにこりと笑うと、ディスプレイに視線を戻した。


……会社のメールに寄越されるものは仕事であると判断するべきだろう。


【分かりました。午後の仕事がひと段落ついたらお手伝いします】


そんな返事を送信して、なんだか居心地が悪くなり書類をそろえて刈谷先輩の方へ向かった。

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