ポケットに婚約指輪

 会議室の一室で、二人で帳簿を照らし合わせ確認していく。
うちの会社では、金銭関係の帳簿はチェックを兼ねて二人ですることになっている。

刈谷先輩は数字には強いので、会計処理関係の仕事はよく任されているようだ。


「うん、いいかな。……お疲れ、菫。ちょっと休憩しましょうか」

「ええ。コーヒーでも入れてきましょうか」

「そうね。お願い」


会議室を出て給湯室の方へ向かうと、人総の入り口でキョロキョロとしている里中さんを見つけた。

彼は先に私に気づくと、緩く微笑んでくれた。
つられて自分も口元が綻ぶのが分かる。


「やあ、塚本さん」

「お疲れ様です、里中さん」

「人事部長いる?」

「部長ですか? えっと、昼から会議に出ていて……」

< 118 / 258 >

この作品をシェア

pagetop