ポケットに婚約指輪
私は行き先が書いてあるホワイトボードを見ながら返事をする。
隣にいてくれるだけで、なんだかドキドキする。
舞波さんが隣にいるときもそうだけど。それよりもっと、温かい高揚感。
なんだろう、安心するような?
舞波さんとヨリを戻すなんて、ぬかるみに足を踏み込ませるみたいなものだ。
それよりは、違う恋がしたい。
たとえ刈谷先輩ときまずくなっても、里中さんに恋ができたらきっと幸せなのに。
「……菫っ!」
切り裂くような声に、私ははっとして顔を上げる。
「遅いからって見てみたら、何を油売ってんのよ」
会議室の扉から、刈谷先輩が睨んでいる。
「あ、すいません。すぐ行きます」
「ごめん、刈谷さん。俺が部長の場所聞いてたんだ」
すぐに里中さんがフォローを入れてくれるものの、これは彼女の苛立ちに油を注ぐことにしかならない。