ポケットに婚約指輪
「……うっ、うえっ」
嫌だ。
思い出したら止まらなくなった。
彼が私を見つめていたあの期間は何だったの。
ただの浮気に本気になった私が悪かったの?
悔しくて、何に八つ当たりしたらいいか分からない。
負け犬ジュエリーがあんまり綺麗で、それさえも悔しくて道路に投げ捨てる。
いい歳の女が往来で泣くなんてかなりイタイ。
人に見られないように川のほうを見つめ続け、大声を出してわめきたいのをこらえる。
もう足も痛い。
ピンヒールなんて頑張って履かなきゃ良かった。
意地はって色々頑張ってみたけど、こんな切ない思いをするだけだなんてバカみたい。
「……落としましたよ?」
そのとき、背中に低い落ち着いた声が響いた。
振り向くと、背の高い青年が手を伸ばして立っている。