ポケットに婚約指輪

「あの、16時には会議終わりますので、またその頃来てください」

「うん。悪かったね」


里中さんが去っていって、私は急いでコーヒーを入れて持っていく。


「すいません、刈谷先輩。お待たせしました」

「ホント遅い。ああいうときは私を呼んで、菫はコーヒー入れにいけば良いじゃない」

「でも、たまたま通りすがりに聞かれただけだったんです」


言葉は尻すぼみになる。
刈谷先輩が苛立っている時は本当に怖い。

刈谷先輩はコーヒーを一口飲んで、私の耳元に口を近づける。
コーヒーの香りの息が鼻先を掠めた。


「……私、知ってるのよ?」


脅しのような一言に、返す言葉が見つからない。


「え?」

「しらばっくれちゃう? 大人しい顔してやるのね、菫って」

「あ、あの」


胸の奥がざわついてくる。

刈谷先輩は、何を知ってるの?

まさか、まさか、まさか――――――




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