ポケットに婚約指輪
「資料室でキスしてたわよね。舞波くんと」
「……っ!」
心臓をわしづかみにされたような衝撃に、息をすることさえ忘れてしまいそうだった。
一瞬口ごもって目を逸らしてから、すぐに後悔した。
しらばっくれなきゃいけないんだ。
あの時、入り口からの角度なら、体の大きな舞波さんの背中と私の足しか見えないはずだ。
誤魔化す気なら誤魔化せた。
だけど、私の反応は刈谷先輩の言葉を肯定してしまった。
刈谷先輩は、ちょっとしたボロも見逃さないようにしっかりと私を見つめている。
「江里子とは友達なのに……ねぇ」
「……っ、あの、刈谷先輩」
刈谷先輩は、この場には似合わないほどにっこりと笑って私の耳元で囁いた。
「黙っててあげるわよ、もちろん。こんなこと知られたらただじゃ済まないものねぇ」
「あの」
「だから菫も私に協力するよね」
口に溜まった生唾を飲み込もうとして、喉につかえる。
私の弱みを握ったと知った彼女の顔は、どうしてこんなに嬉しそうなの。